「医療被ばく」の危険性 - 仏法研鑽塾Ⅲ

「医療被ばく」の危険性

記事転載。

15ヵ国のなかで、突出して医療被ばくが多い日本。

「胸のレントゲンは0.03ミリシーベルト。乳房のマンモグラフィ(乳房のエックス線撮影)は0.4ミリシーベルト、お腹のCTは6.8ミリシーベルトに上ります(下表参照)。被ばくの影響には、どこまでなら安心というしきい値はありません。極力、放射線検査を受けないことが望ましいのに、日本ではかなり頻繁に行なわれています。」

「2004年、イギリスの医学雑誌『ランセット』に、オックスフォード大学のベリングトン博士らの研究論文が掲載されました。タイトルは、『診断用エックス線による発がんのリスク:英国および 14ヵ国の評価』(04 年1月31 日号)。欧米をはじめとする15の国で、放射線検査の頻度や、その検査による被ばく量、年齢、性別、発がん率などを基に解析した国際研究です。その論文によると、日本は年間のがん発症者の3.2%、人数にして年間7587人が医療被ばくが原因とされています。2番目に多いクロアチアでも1.8%ですから、世界でも突出して医療被ばくが多いと言えるでしょう」

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――なぜ、日本ではそれほど医療被ばくが多いのですか。

「理由は多岐にわたりますが、1つはCTの保有台数が多いことだと思います。日本の人口あたりのCT台数は、他の国の3.7倍にのぼります。この数字を加味して上記論文と同じ方法で計算すると、年間の発がん数の4.4%、人数では約1万人が医療被ばくの影響と考えられます。CTの被ばく量は非常に高く、エックス線の約150倍。1回の検査での被ばく量が高いことが、日本の医療被ばくが多い一因になっているのです」

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――医療被ばくが多いことについて、国や医療界は何らかの対策をとっているのでしょうか。

「私には、科学的根拠が稀薄なまま「安全だ」という解釈を広めようとしているように見えます。厚生労働省には、医療被ばくを担当する部署がなく、未だに調査や分析が行なわれていません。これから対策を講じようという動きも見られません。ベリングトン氏の論文は、日本にとってよほど都合が悪かったのでしょう。放射線医療の関係団体や学会は、論文が発表された当時、“火消し”に奔走していました。シンポジウムを開いて医療被ばくの危険性はないと論じたり、専門家向けの雑誌やパンフレットにベリングトン氏への反論文を載せたりしたのです。しかし、国際的な医学雑誌に科学的根拠のある反論文が掲載されたことはありません」

――海外の状況はいかがですか。

「アメリカの国立衛生研究所(NIH)では、放射線検査機器メーカーに対し、被ばく低減の対策を講じるように要請しています。イギリスでは、92年から報告制度を始めました。放射線検査を行なった医療機関は、放射線量や使用した機器、撮影条件など細かな情報を健康保護庁(HPA)に伝えなければならないのです。基準値の放射線量を超える検査を行なった医療機関には、注意を促しています。その結果、05年には検査あたりの線量が85年の約半分にまで下がりました。実質、野放し状態の日本とは大違いです」

「がん検診の有効性を示すには、検診によって死亡率が減少し、QOL(クオリティ オブ ライフ。生活の質)が向上し、寿命が延びるという科学的根拠が必要です。しかし、日本では検診の有効性についてほとんど検討されてきませんでした。それどころか、被ばく量の多いPET検診のガイドラインには、「PET がん検診の有効性に関するエビデンス(科学的根拠)は不十分である」と書かれています。PET検診は放射性物質で標識した薬剤を静脈に注射して全身に行き渡らせ、その物質が出す放射線を体の外から撮影する方法です。小さながんも見つけられると考えられ、94年に登場した当初は「夢の検査」などと言われていました。しかし、20年たった今でも有効性が確認できていないのです」

「政府がしきりに推奨している乳がん検診のマンモグラフィ検査も注意が必要です。特に若い人は慎重になるべきと私は思っています。乳腺組織が発達しているため、マンモグラフィで撮影しても白っぽく映りやすい傾向があります。一方、石灰化したがん組織も白く映りますから、マンモグラフィは被ばくするうえに、誤診の危険性もあるのです。現在、40歳以上の女性は毎年、マンモグラフィを受けることが推奨されていますが、必ずしも正当化されているとは言えません。若い女性がどうしても乳がんの検診を受けたいのなら、被ばくの心配のない超音波のほうが適しています。日本の超音波は非常に優れていて、小さなしこりも見つけ出します。マンモグラフィを受けるのは、超音波で異常が見つかってからでも遅くはないはずです」

「厚労省は、とにかくがん検診の受診率を上げようとしていますからね。厚労省が乳がんと子宮がんの検診受診率を高めるために作ったパンフレットには、根拠として「イギリスとアメリカ、ヨーロッパは、受診率が75~80%で、日本は20%」などと書かれています。しかし、イギリスは3年に1回、アメリカは2年に1回の検査回数なのです。毎年の受診を想定している日本と比較できるデータではありません。私は、そのパンフレットの制作に関わった医師に抗議しましたが、「次回の改訂版で直します」という返事でした。世界的に見れば、がん検診を実施する国は減少傾向にあります。胃がん検診は日本しか行なっていませんし、肺がん検診はハンガリーと日本だけです。国内では、長野県の泰阜村(やすおかむら)が初めて、89年に村としてがん検診を廃止しました。検診をやめても、がんによる死亡率はまったく増えていないどころか、胃がんの死亡率は減少しています」

「労働安全衛生法によって40歳以上の会社員は年に一度、それ以下の年齢の人は5年に一度、エックス線検診を受けることが義務づけられています。しかし、WHO(世界保健機関)は 約40年前から「エックス線の集団検診は発見率が非常に低く、無効である」として中止を勧告しています。それは当然のことで、エックス線検査で結核を発見する確率はわずか0.0069%(『EBM健康診断』矢野栄二他著 医学書院)しかありません。WHOの調べでは、ベテランの医師でも誤読する確率は高く、同じレントゲンフィルムを2回見たときに、前の診断と違う診断をしているケースもあるということです。医師であってもエックス線を正しく読影することは難しいうえに、集団検診になると一度に大量の画像を読まなくてはいけません。忙しい医師が時間を縫って読みますから、間違える確率も大きいのです。それ以前に、結核はエックス線検査をしなくても、痰を培養する「喀痰検査」で十分に調べられます。培養に3ヵ月ほどかかりますが、遺伝子を早く増幅させる手法が確立されましたので、結核菌に対しても応用できると思います」

「日本はCTなどの医療機器が世界一多いことは先ほども述べましたが、それらの機械は非常に高額です。医療機関も採算を取らなくてはなりませんから、積極的にCTを使うようになります。ある医師から「医学上、CTは撮らなくてもいいと思っても、事務方から“今月は検査件数が少ない”などと言われる」と聞いたことがあります。医師によっては、検査の必要性を感じなくても収益性を意識して検査してしまうこともあるのです」

――患者の立場では、納得しにくいことですね。

「そうですね。ただ、患者さん側にも問題がないとは言えません。医療機関に行って何も検査しないと「あの先生は何もしてくれなかった」とぼやく声を聞いたことはないでしょうか。本来であれば、丁寧な問診や触診で症状を見極め、必要な時だけ検査をすればいいのに、それでは物足りないというのです。もっとも、これには医療従事者の忙しさも関係しています。病院の医師はいつも時間に追われており、効率よく診療をするために「とりあえず」といった風にレントゲンやCTを撮ることがあります。先に結果を見てから診察をするという本来の工程とは逆の順序で行なわれており、それが当たり前になっている感も否めません」

――医師は医療被ばくのリスクをどのくらい把握しているのでしょう?

「残念ながら、あまり詳しく知らない医師が多いのが実情です。医学生が読む放射線科学の教科書には、診断や治療については非常に多くのページを割いています。ところが、被ばくの影響については1ページか、2ページあればいいほう。ごくかんたんにしか書かれていません。そもそも放射線科を専門にする医師が少ないうえ、被ばくについて学生に教えられる医師は非常に限られます。医学部での授業時間がそもそも少なく、十分に教えている大学は本当に少ない。福島第一原発事故の直後は放射線の危険性に多くの人が注目しましたが、時間が経つにつれ、徐々に「低線量放射線は安全」という風潮が強くなっています。今後はなおさら被ばくのリスクを軽視する「放射線安全神話」を広めようとする力が強くなるのではないかと心配されます」

――そうしたなかで、無用な医療被ばくを減らすために、一人ひとりが意識すべきことはなんでしょうか。

「やはり普通の市民の側も知識を得ていくことではないでしょうか。もし、医療機関でレントゲンやCTを撮ると言われたら、本当にその必要があるのかを確認しましょう。同じ検査を以前にしたことがあれば、その時の検査結果を使えないか聞いてみるのも大事です。放射線を使わない検査や、放射線検査のなかでも被ばく量の少ない方法がないかも確認してみてください。そして、放射線検査の回数や、被ばく線量を記録しておくとよいでしょう。自分で自分の身を守るという意識を持って欲しいですね」

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